
南アジアと中東欧から現代美術の専門家を日本へ
国際交流基金(JF)は、公益財団法人石橋財団の協力を得て、2018年度から「石橋財団・国際交流基金 現代美術キュレーター等交流事業」を続けています。この事業のねらいは、海外で日本の現代美術に関わる人材を育て、人と人とのネットワークを築き広げていくことです。そのために、主にキュレーターを中心とする海外の現代美術の専門家などを、グループ単位で短期間日本に招いています。
招へい期間中、参加者は美術館やギャラリーなどを視察し、日本のキュレーターやアーティストと交流します。こうした場を通じて相互理解を深め、専門家同士が継続的な関係を築くことを目指しています。
2026年度の対象地域は、この事業として初めてとなる南アジアと、近年は招へい実績が限られていた中東欧です。南アジアでは、大規模な国際展の開催や民間財団による継続的な支援を背景に、国や地域を越えて関係者が交流し、ネットワークを形成する機会が広がっています。中東欧では、美術館や現代美術センター、国際展などを基盤に多様な活動が展開されています。両地域とも、日本との美術分野での交流が今後さらに発展することが期待されています。
2つのグループがそれぞれ7名で来日
招へいスケジュール
- 南アジアグループ(インド、ネパール、バングラデシュ):2026年10月29日(木)~11月9日(月)、招へい者7名
- 中東欧グループ(スロベニア、チェコ、ハンガリー、ポーランド):2026年11月1日(日)~11月12日(木)、招へい者7名
参加者の中心は、美術館や現代美術機関、アート・スペース、国際展で活動するキュレーターです。取り組むテーマはアート、テクノロジー、科学、社会、教育など多岐にわたります。
東京・関西の美術館や作家のスタジオを訪問
両グループは期間中、東京と関西の美術館、ギャラリー、アート・スペース、作家のスタジオなどを訪れます。さらに、都内の美術館やギャラリーを舞台に開催される「Art Week Tokyo」にも参加し、日本のキュレーターやアーティストらと交流し、意見を交わします。主な訪問先(予定)は次のとおりです。
- アーティゾン美術館
- 東京国立近代美術館
- 東京都現代美術館
- 東京都写真美術館
- 森美術館
- トーキョーアーツアンドスペース
- 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
- 兵庫県立美術館
- Art Week Tokyo
- 作家スタジオなど
来日する専門家の顔ぶれ
南アジアグループ
- Gauri Pathak(インド/Khoj International Artists’ Association シニア・キュレーター、コミュニケーション担当):ニューデリーを拠点とする非営利の現代アート組織Khojで、アーティスト・イン・レジデンス、展覧会、ワークショップ、パブリックプログラムなどの企画・運営を担当しています。参加型実践や美的教育、ストーリーテリングを軸に、人々がアートと出会い、関係を築くあり方を探究しています。
- Anushka Rajendran(インド/Prameya Art Foundation チーフ・キュレーター):社会、環境、文化をめぐる課題に取り組むアーティストやプロジェクトに注目し、リサーチに基づくキュレーションを実践しています。2018年にはコチ=ムジリス・ビエンナーレのアシスタント・キュレーターを務めました。アートジャーナル『TAKE on Art』の編集やアウトリーチ事業にも携わっています。
- Jahnavi Phalkey(インド/Science Gallery Bengaluru エグゼクティブ・ディレクター):専門は科学技術史で、科学と社会・文化の関係をめぐる研究やキュレーションを行っています。Science Gallery Bengaluruでは科学、芸術、社会を横断する展覧会を手掛けるほか、著作やドキュメンタリー映画の制作などにも取り組んでいます。
- Neda Haffari(ネパール/Space A ディレクター、キュレーター):カトマンズを拠点とするオルタナティブスペースSpace Aのディレクターです。実験的・学際的な現代美術を軸に、展覧会、リサーチ、レジデンス・プログラムなどを企画しています。若手アーティストの支援や、国内外のアーティストやキュレーターをつなぐネットワークづくりにも携わっています。
- Manish Lal Shrestha(ネパール/Gallery Mcube 創設者、ディレクター):現代美術のための学際的なアートセンターGallery Mcubeを設立し、展覧会、アーティスト・イン・レジデンス、ワークショップ、国際協働プロジェクトなどを展開しています。自らもアーティストとして活動しながら、若手アーティストの支援やコミュニティとの協働を通じて、ネパールの現代美術シーンの発展に貢献してきました。
- Emdadul Hoque Topu(バングラデシュ/British Council Bangladesh アート・プログラム・マネージャー):アーカイブや記憶を主題に、不在や移動、忘却が歴史や表象に与える影響を探究しています。2022年にはBritto Arts Trustの一員としてドクメンタ 15に参加しました。国際的なフェローシップやキュレーター育成プログラムを通じて活動の幅を広げています。
- Ruxmini Reckvana Q Choudhury(バングラデシュ/Samdani Art Foundation キュレーター):2016年からSamdani Art Foundationに所属し、南アジアを代表する現代美術プラットフォームの一つであるDhaka Art Summitで、リサーチやプログラム開発に携わっています。若手アーティストとの協働を重視しながら、多様な観客と現代美術をつなぐ活動を展開しています。
中東欧グループ
- Jure Kirbiš(スロベニア/Maribor Art Gallery アシスタント・ディレクター):クィアな視点を基盤に、キャンプ、フォークロア、物語、オンライン文化、コメディやホラーなどに関心を寄せて展覧会を企画しています。2015年にヴェネチア・ビエンナーレのスロベニア館副コミッショナーを、2024年に「EKO 9 Triennial of Art and Environment」の芸術監督を務めました。
- Monika Čejková(チェコ/National Gallery Prague キュレーター(1945年以降のコレクション担当)):デジタル時代における現代美術とテクノロジーの関係に関心を持っています。人工知能、サイバーカルチャー、ポストヒューマニズムなどをテーマに、展覧会、研究、出版活動を行っています。National Gallery Pragueでは、戦後から現代に至る美術の展覧会や調査研究に携わっています。
- Don Tamás(ハンガリー/Modem Centre for Modern and Contemporary Arts チーフ・キュレーター):中東欧の若手アーティストや、現代美術を取り巻く社会・政治・制度的状況に関心を持ち、展覧会の企画などを行っています。若手アーティストに発表の機会を生み出す「Küszöb Festival」を設立・運営するなど、美術館の内外でキュラトリアル・プロジェクトを手掛けています。
- Kálmán Borbála(ハンガリー/Ludwig Museum キュレーター・美術史研究):中東欧やポスト社会主義地域の現代美術を中心に、展覧会の企画やリサーチに携わっています。ミャンマー・ヤンゴンで現代美術のフィールドリサーチや展覧会企画に取り組んだ経験があり、異なる文化的背景を横断するキュラトリアルな実践を行っています。
- Szalai Borbála(ハンガリー/Trafó Gallery ギャラリー・ディレクター):Trafó Galleryで、ハンガリーの若手アーティストから海外作家まで幅広く紹介する展覧会を手掛けています。OFF-Biennale Budapestの創設メンバーとして、複数回のビエンナーレで共同キュレーションを担当しました。現在は同ビエンナーレのStrategic Boardも務めています。
- Stanisław Ruksza(ポーランド/TRAFO Center for Contemporary Art ディレクター、キュレーター):2017年からTRAFO Center for Contemporary Artの館長兼チーフ・キュレーターを務めています。アジアを含む非欧米圏との交流を積極的に展開してきました。芸術と社会・政治的変化の関係をはじめ、セクシュアリティや死、現代美術における境界的な現象などをテーマに研究とキュレーションを行っています。
- Piotr Lisowski(ポーランド/Wroclaw Contemporary Museum ディレクター):現代美術の企画、研究、出版など幅広く活動しています。ヴロツワフの現代美術史やアーカイブにも継続的に取り組んでいます。これまでに「Wrocław ’70 Art Symposium」をテーマとする展覧会や、Jerzy Ludwiński Archiveに関するプロジェクトなどを手掛けてきました。
事業を担う2つの組織
主催は独立行政法人 国際交流基金(JF)、特別助成は公益財団法人 石橋財団です。石橋財団は1956年に石橋正二郎によって設立されました。活動の二本柱は、東京・京橋のアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)の運営を中心とする美術館事業と、芸術・文化・教育分野での寄付助成事業です。近年は日本文化の海外発信、国際交流、人材育成への支援にも力を入れており、国際交流基金と協力して実施している「現代美術キュレーター等交流事業」や「日本美術リサーチフェローシップ」もその一環です。
国際交流基金は「日本の友人をふやし、世界との絆をはぐくむ。」をミッションに掲げる独立行政法人です。「文化芸術交流」「日本語教育」「日本研究・国際対話」を通じて国際文化交流を推進しています。美術の分野では、コミッショナーとしてヴェネチア・ビエンナーレ日本館を実施しています。また、現代美術、写真、工芸、建築、デザイン、日本人形などの巡回展を世界各地で展開しています。さらに、各国からのキュレーター招へいなど美術関係者の交流を促進し、美術関連情報の収集・発信も行っています。
出典:国際交流基金